閑話休題:叙述トリック
『無能な案内係』
(チッ、またソレか・・・)
男は苛立っていた。
(こいつ、ヒトの話を全く聞いてねえな・・・)
男は先程から、案内係にアレやコレやと不満を訴えているのだが
その回答は、一向に要領を得ない。
──職業体験の女学生、というワケでもなさそうだが。
(ヘラヘラしやがって、少しぐらい申し訳なさそうな顔とかしたらどうなんだよ)
自分はコレほど怒っているのに、相手は怯んだ素振りも見せない。
その態度も気に入らなかった。
そこで男は、攻め方を変えるコトにした。
こんな無能を案内係にしたJRを糾弾してやろうと、質問の内容を変える事にした。
「駅長室はドコだ」
『駅長室は後方、南口改札の脇にございます』
「迷子を見かけたんだけど」
『迷子センターに連絡しますね』
「多目的トイレで・・・」
いくつ質問を重ねても、案内係は淀みなく答えた。
その知識量、判断の早さ、案内の的確さ。
どれを取っても、まるでベテランのそれだった。
それが却って腹立たしかった。
自分に対しても、こういう対応をすべきではないか。
男は再度、“本題”を切り出した。
「何度も言うけどさ、おたくが設置してる機械のせいで私の心が不快感を覚えてるんだよね!どうしてくれんのコレ!?」
『駅に関する質問だと嬉しいです♪』
「駅に!!関する!!!!質問だろうが!!!!!!」
激昂した男は、眼前の案内係を激しく殴りつけた。
周辺の通行人も驚いて足を止め、コトの成り行きを見守る。
しかし、画面の中の『さくらさん』は意に介した様子もなく、淡々と“職務”を遂行した。
『駅に関する質問だと嬉しいです♪』
(終)